化学防護服 PERSONAL PROTECTION化学防護服 PERSONAL PROTECTION

防護服とは

防護服が使用される現場とは

化学防護服(以下、防護服と略す)とは、酸、アルカリ、有機薬品、その他の気体、液体または粒子状の有害物質を取り扱う作業に従事するときに、化学物質の透過および浸透の防止を目的として着用される服のことです。最近は化学物質だけでなく、感染症の原因物質へのばく露防止のために使用され、TVニュースなどを通じ一般の人の目にも触れる機会が少なくありません。例えば、以下のような報道がありました。

  • ① イギリスで起こった神経剤によるロシア二重スパイ親子襲撃事件で、捜査に当たる英軍関係者が防護服を着ていました。
  • ② 天津で起こった危険物倉庫の大規模爆発事故で、現場の有毒物質濃度を測定する消防隊員が防護服を着ていました。
  • ③ 福島第一原発の事故の際、復旧作業にあたった作業員たちは粒子状の放射性物質によるばく露を防護するための防護服を着ていました。
  • ④ オウム真理教がひきおこした地下鉄サリン事件や、山梨県上九一色村(当時)での強制捜査の際、自衛隊員や警察官などがサリンによるばく露を防護するために身体全体を覆った防護服を着ていました。
  • ⑤ 鳥インフルエンザで汚染された鶏舎の消毒、解体を行っている作業者が防護服を着ていました。
  • ⑥ 石綿を使った建築物の解体作業者が防護服を着ていました。
    このほかにも、原子力発電所の定期修理保全、ダイオキシンばく露防護のための焼却炉での作業、半導体製造作業、特殊な塗料の塗布作業においても防護服を着用していました。

また、平成27年12月18日、「化学工場5人膀胱がん、オルトトルイジン扱う」新聞各社は一斉に、化学物質を取り扱う工場での膀胱がんの集団発生を報じました。そのばく露状況として皮膚を介しての経皮吸収が注目され、化学防護服とともに化学防護服の使用が注目されています。

化学防護服の変遷

不織布製防護服の誕生

1967年、米国デュポン社がポリエチレン100パーセントのフラッシュスパン製法の不織布「タイベック®」を開発し、不織布(繊維を織らずに接着剤や熱処理加工などで布状としたもの)製の化学防護服が登場しました。軽く、強く、耐有害物質浸透性、透湿性があるという特徴を持ち、米国では限定使用(使い捨て式)防護服の素材として大量に使われていました。
この化学防護服がわが国に入ってきたのは、1970年代初頭です。限定使用防護服として市場に出されましたが、当時は化学防護服を着用するという意識に乏しく、汚れの激しい作業と放射性粉じんに対する防護に使用されたに過ぎませんでした。
しかし、アスベストの有害性が広く報道された1980年代後半、アスベスト含有建材を用いた建物の解体・改修工事において保護衣の使用を徹底するよう国から指導があったことなどから、アスベストの除去、封じ込め、囲い込みの作業に大量に不織布製限定使用防護服が使われるようになりました。フラッシュスパン不織布だけでなくSMS(スパンボンド・メルトブロー・スパンボンド)素材も採用されました。

使い切り防護服の普及

その後、より強力な防護のためにコーティング素材、ラミネート素材による化学防護服が提案され、1993年には最高の防護であるレベルA(米国EPA基準)の限定使用化学防護服が日本に紹介されました。当時消防、警察にはリユーザブル(再使用可能)の化学防護服が一部配備されていたため関心は薄かったようですが、1995年3月の地下鉄サリン事件をきっかけとして配備が進み始めました。
2000年秋には、ダイオキシン問題が起き、その後、SARS(重症急性呼吸器症候群)の流行、鳥インフルエンザの発生、また2005年夏からのアスベストばく露防止に関する規制強化や、アスベストによる健康被害が次々と明らかになったことなどにより、不織布製化学防護服の需要は飛躍的に増大しました。その間、素材の開発も進み、防護に加えて防護服内にこもる熱によるストレス軽減のために、透湿性フィルムと不織布を貼り合わせた素材が市場に出まわるようになりました。

化学防護服着用の目的

化学防護服着用の目的は、有害化学物質が皮膚に接触することの防止と有害物質を作業環境外へ持ち出さないことですが、有害性が見えにくいことから、単価の安いものを使う傾向にあります。経済性ももちろん大切ですが、防護性を主眼におくとともに、着用を進めるためにも作業者への身体ストレスがより少ない防護服を選択する必要があるでしょう。

執筆:
十文字学園女子大学大学院
人間生活学研究科 食物栄養学専攻
衛生学公衆衛生学研究室
教授 保健学博士 田中 茂
(専門は労働衛生学、作業環境学。「知っておきたい保護具のはなし」など中央労働災害防止協会での著書、執筆多数)

防護服の基礎知識

  • 透過データの検索方法
  • 動画で見る実験ムービー
  • 動画による化学防護服講座
  • 熱中症対応